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定期連載 月曜評論
更新日:2005年9月16日
地域を結ぶ社会福祉法人

 私たちが最後にお世話になるかもしれない老人福祉施設は、九割近くが社会福祉法人であり、また、訪問介護をする事業者の約三分の一は、社会福祉法人である。
 訪問介護は、企業もNPO(民間非営利団体)も行っているし、老人福祉施設経営についても、利用者の選択の幅を広げ、競争によってサービスの質を向上させるため、企業の参入を求める声が高まりつつある。
 その時に問題になるのが、社会福祉法人と企業・NPOとの競争条件の平等化(イコール・フッティング)である。というのは、社会福祉法人については、施設をつくる際の厚い補助金があるし、運営資金についても、社会福祉法人の福祉事業には法人税が課せられないのに対し、企業・NPOの同じ事業には30%の法人税が課せられる。社会福祉法人に対する寄付は所得税の計算上損金にできるのに対し、NPOについてはその特典はない。社会福祉法人の職員の退職金には国などの補助があるが、企業・NPOにはない。そういう恩典付きの社会福祉法人相手に競争せよといっても、ハンディ付きだからなかなか競争に参入できないし、参入しても対等でないから社会福祉法人のサービスの向上につながりにくいのではないかというのが、企業やNPO側の言い分である。

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 市場原理を重視する経済の立場からは、「社会福祉法人の恩典など取っ払ってしまえ」と議論は簡単なのであるが、では社会福祉法人が企業かNPO並みになって、今の福祉の需要をすべてこなせるかとなると、大丈夫といえないところが悩ましい。
 一つには、いやな言葉だが、どうしても社会的弱者と呼ばれるグループが出てしまうということである。たとえば自己負担分を負担できない人たちである。彼らについては、社会福祉法人がその半分を引き受けている(残りは補助金でカバーする)。このあたりはまだお金の問題で片付くが、保険制度の対象外の人や、その特異な行状、性癖などから、企業やNPOが引き受けることが不可能な人もいる。そういう人のためのセーフティーネットは、社会福祉法人に引き受けてもらわざるをえないかもしれない。

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 もう一つは、地域におけるネットワークの形成である。これからの福祉は、施設や在宅の事業者、NPOなどがバラバラに行うのでなく、医療とも近隣の人や家族とも連携し、それぞれの対象者に最適なネットワークを組んでサービスを提供する方向に進むことになる。そして、従来の大規模な施設の機能を分け、地域の中にサテライトのように小規模で、多様な機能を持つ小施設をちりばめる。これに、三百六十五日三食の配食サービスを提供できる拠点や、移送サービス、ミニデイケア、入浴などの拠点などをつくり、自宅にいても施設にいるのと同じサービスを受けて生活できるようにするためのネットワークをつくる。それらのサービスには、NPOや近隣のボランティアなど、多くの手を借りなければならない。そういう地域体制をつくるため、社会福祉法人は、決まったサービスに安住することなく、どんどん地域に進出し、いろいろなサービスの提供者たちとネットワークを結んでいく必要がある。地域で引き受けきれない人のセーフティーネットとなる社会福祉法人が、ネットワークの一つの核になる意味は大きい。
 社会福祉法人がそういう機能を果たせば、私は、それにふさわしい恩典を認めてよいと考えている。
 逆に、企業やNPOがやれることだけをやっているなら、市場経済論者を説得できないということであろう。

(信濃毎日新聞掲載/2004年7月5日)
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