政治・経済・社会
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定期連載 月曜評論
更新日:2005年9月16日
武力行使を過去の遺物に
 私は、これまでの歴史の流れからして、あと二世紀ほどのうちに世界連邦が成立し、現在の国は、州のような自治体になるだろうと考えているが、ここ何年かのアメリカや日本の動きをみると、むしろ世界平和への逆風が吹いているように見える。
 少子化を実現した民主主義国は、国民の生存確保のための侵略戦争はしないというのが私の基本的な認識で、その点は現在のアメリカでも日本でも変わりはないであろう。
 そして、世界のどの国も、経済発展に向かって努力しており、経済発展は必ず少子化と民主化(個人の尊重)とをもたらすであろうから、やがて世界中から他地域侵略の動機が消滅することは、間違いないといえよう。
 ただ、世界の戦争のほとんどは侵略を動機としているが、それがすべてではない。国と国とが対立する動機には、政治体制の違い、宗教の違いのほか、石油など特定の産品への欲求、経済的利害の衝突、非人道的行為や挑発的行為への怒りなど、多様なものがある。
 戦争の動機は、簡単に消えるものではない。

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 問題は、それらの対立が戦争によってしか解決できないかである。そうは思えない。政治体制としては民主主義が最善のものであるが、武力によらずとも、経済の成熟が独裁主義体制を無血で崩壊させることは、ソ連の壮大なる解体を目撃したばかりである。経済発展の恩恵を世界中に及ぼしつつ、時の経過を待つべきであろう。
 宗教の違いが戦争の決定的要因になるとは考えられない。世界の各地で、宗教を異にする人たちが共存している。経済問題も社会問題も、経済的あるいは社会的手段で解決できるであろう。国家間の対立は、知恵を出し多くの国がネットワークを組めば、戦争によらずして解決できる段階に達している。

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 とはいえ、武力行使が必要となる事態は、残念ながらなくならないであろう。一つは戦争が起きた時にこれを制圧するためであり、もう一つは非人道的殺りくを制圧するためである。どちらも緊急事態であって他に解決手段のない時に限る。
 ただ、その武力は、一国のもの、あるいは特定の利害関係で結びついた複数国のものであってはならず、当事者国を除く国々のおおかたの支持を得たものでなければならない。
 世界連邦が実現しても違法な武力行使を制圧するに足る警察力が必要であり、私たちは、今から世界警察を準備することが、不当な戦争を防ぐために必要であると考える。国連を改革して、国連統括下の警察力(諸国の軍隊または警察隊の連合隊)を備えるのが、現実的であろう。
 ブッシュ政権は、世界の警察をめざすのはよいが、独善的であり、かつ知恵と忍耐力を決定的に欠いていて、危険である。
日本は、米英以外の諸国と連携しながら、国連改革と世界警察の設立を進めるべきであろう。その議論の中でへ戦争または大規模殺りくを抑圧するための世界警察の武力行使以外には、国は一切武力行使してはならないという規範が世界共通のものとして形成されれば、今後の戦争をなくすことができるであろう。気にくわない国ガあ届からといって、武力行使で解決しようとする感覚は、前世紀の遺物として抑制していきたい。
(信濃毎日新聞掲載/2005年1月10日)
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