政治・経済・社会
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定期連載 辛口時評
更新日:2005年9月16日
唯一絶対の正義とは

 ブッシュさんは、イラク戦争やその後の占領を、民主主義のためだといっている。小泉さんと仲がいいのは、日本の民主主義が熟したためだともいう。
 そうだろうか。
 独裁国が民主主義国に攻め入って、その民主主義国を守るために戦うのなら、それは民主主義のためである。しかし、フセインは民主主義国に攻め入ったわけではなく、その準備のために大量破壊兵器を蓄えていたわけでもない。いかにフセインがけしからぬ独裁者であろうと、その国に攻め込んで独裁政権を外から倒すのが、民主主義のためであろうか。
 いうまでもなく民主主義というのは、一つの統治(政治体制)の在り方であって、そういう政治体制を選ぶかどうかを決めるのは、その国である。
 その国の経済レベルの向上につれ、国民の意識のレベルが上がると、彼らは自然に民主主義体制を求めるようになるが、そのレベルに達する前に無理やり民主主義体制を敷いても、かえって混乱や内紛が生じ、多くの犠牲者が出るだけである。
 もとより独裁者が国内で虐殺などを行う時は、経済制裁や国連軍派遣など間接的あるいは直接的な方法で救済しなければならないが、これは、民主主義のためというより、人命保護のためである。その限度を超え、独裁政治体制を倒すことを直接の目的として外から武力を行使するのは、民主的ではない。
 そうとすると、民主的ではない戦争を小泉さんが支持する理由も、日本の民主主義が熟したためではありえない。本当に熟していれば、多数の人命を奪う戦争以外の方法で、イラク国民の命を圧制から守ろうとするであろう。
 民主主義先進国で大統領に選ばれているブッシュさんだから、それぐらいのことはわかっているし、わかっているから北朝鮮やイランその他の独裁国に戦争を仕掛けないのだと信じたいのだが、その発言ぶりからするとそうではないらしい。
 どうやらブッシュさんにとって民主主義とは、唯一絶対の正義であり、これと相いれない他の体制を倒すべき錦の御旗のごときもののようである。一神教における神のようだといってもよい。
 民主主義をそのようなものだととらえれば、独裁者フセインを倒すのは邪教者を追放するのと同じで文句のない正義の実現であり、これを支援する人は民主主義者であり、支援しない人は民主主義者でないということになってしまう。ブッシュさんの眼からみれば、フランスもドイツも、まだ民主主義国として成熟していないというふうに映るのであろう。
 繰り返すようだが、民主主義は、その国の経済の発展がもたらす国民の意識の向上がもたらすものであって、機が熟せば必ず独裁体制は民主主義体制に変わる。その当たり前のことを忘れて、外からの武力で民主主義を実現しようとすると、民主主義の基本にある市民の人命尊重という理念に背く結果を招く。ブッシュさんの民主主義は危険である。

(神奈川新聞掲載/2004年11月29日)
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