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提言 ビジネス(人事・組織)
更新日:2006年6月6日
相手あってのコミュニケーション
相手の存在を受け入れる
 気持ちを伝えるというのは、コミュニケーションが成り立ってはじめてできることです。
  コミュニケーションが成り立つためには、お互いが相手を受け入れる気持ちになることがまず必要です。
  相手を敵だと思っていたのでは、わからせようという気持ちが湧(わ)いてきません。一方的にこちらの立場の正当性を言い立てるだけになります。相手の方も、その態度や言い方に反撥(はんぱつ)し、聞こうとしません。
  相手のことを、どうでもいい人だと思っている場合も、同じです。
  相手が上司であったり、実力がはるかに上の人であったりして、気圧(けお)されてしまい、余裕を失って頭が真っ白になってしまった場合も、うまくいきません。しゃべる人が何を伝えようとしているかすら考えられないで、うわごとのようにしゃべっていたら、相手に気持ちが伝わるはずもありません。
  これまでに述べたのは、相手との関係で気持ちが通じない場合ですが、しゃべる人の気性が自己中心的で、どんな相手であってもその気持ちなど思いやることなく、自分の言いたいことだけを言うタイプの人がいます。そういうタイプの人は、それでも無条件に愛してくれる親以外には、気持ちが伝わりません。
  どんな相手であっても、その存在を受け入れれば、それは、こちらの表情や態度、しゃべり方などから相手に伝わります。それが、相手の心を開くための第一歩です。

相手の気持ちをわかる
  私は何千人という被疑者を調べてきました。
自分勝手な考えから犯罪を犯した人がほとんどですから、こちらは容認する気はありません。しかし、ただ憎むだけだったり見下すだけだったら、相手もかたくなな態度で自分勝手な言い分を繰り返すだけで、調べは進みません。極悪非道な殺人、強盗などの犯人であっても、何とか真人間にしたいと心から望み、反省の糸口を開こうという気持ちで話しかけてはじめて、相手も真実を直視し、非を認める気持ちになります。
  ただ、そうなっても、犯人にも、自分のことをわかってほしいという欲求が強くあり、調べる人にその理解力があるかどうかを注意深く値踏みするようです。「いいかどうかは別だけど、その時の君の気持ちはわかるよ」という一言が効(き)くのです。
  つまり、自分の気持ちを伝えるためには、相手を認めるだけでなく、相手の気持ちをわかることが必要です。そうすれば、自然に、相手が自分の気持ちをわかってくれるように、伝えたいことを整理し、こちらの言い方を工夫することになります。「いやならいやと言ってほしいんだけど、聞くだけ聞いてくれる?」というような言い方です。相手と利害が対立する時でも、気持ちをわかったうえで、その気持ちを変えるよう、理をつくして訴える智恵が必要です。ゆとりがなく、感情的になって気持ちをぶつけるだけの人は気持ちを伝えるのが下手、その逆の人が上手ということになります。

勇気をもって正直に言う
  これまでに述べた2つの条件を満たす人であればあるほど、相手の感情を損なうようなことは言いにくいものです。
  しかし、相手の切実な望みを断わらなければならない時とか、部下や親しい人に注意をしなければならない時、相手が怒るような失敗を正直に話して謝るしかない時など、言いにくいことを言わざるをえない事態に至ることが、長い人生には必ずあります。
  その時は、腹を決めて、簡潔な言葉で、スパッと言うことです。はっきりしない言い方をしたり、うだうだと弁解したりしつこく理由を言ったりすると、相手を苛立(いらだ)たせます。
  勇気をふるって自分の真情を正確に、はっきりと示す。それが言いにくいことについて気持ちを伝えるコツだと思います。

(「PHP」6月号掲載/2006年5月10日発行)
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