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提言 福祉・NPO・ボランティア
更新日:2009年7月15日
開始された認定作業
 新公益法人への移行認定が始まって半年余、将来よりよい制度にするために、感じるところを3点述べる。
 1つは、認定についてであって、認定をいくら厳しくしても偽装公益法人は混入してくるであろうし、厳しくするほど優良な公益法人が外されていくだろうということである。
 これまでの認定状況を見ると、内閣府でまだ20法人にも達しておらず、相当数の都道府県が零である。5年内にどれだけが処理できるのかと心細くなる状況であるが、審査に時間が掛かっているのは、例によって、組織や運営の実体に何の影響も持ちそうにない微々細々たる表現をあげつらって止まないことが主因と見受けられる。そのため、行政が示したガイドラインやFAQその他の例示どおりの書類を整えた法人が認定を受けやすい傾向が顕著に現れているが、これは、民間公益を独自の立場から実現しようとする法人の意欲と自立性を削ぐ弊害を生じる。他方、いかに書類を整えようとも、制度を悪用する意思を持つ者の偽装行為があれば、これを看破することは至難の業である。
 認定は、法人の実態に応じた的確な着眼点から骨太に把握して行うこととしてはどうであろうか。あとは認定後の運用を見て、資料の開示の程度や内容などから不良法人を炙り出し、退去させる仕組みを考案する必要があろう。
 2つは、公益目的事業比率についてであって、その比率を50パーセント以上と定めたのはよいが、一般管理費(法人会計)を公益目的事業費と別のものとしたことから生じる非合理性が、現実のものとなっている。
 営利法人であると非営利法人であるとを問わず、複数の事業を行う場合、個々の事業の成否を経理面から判断するために、個々の事業費と一般管理費とを区分して管理することは当然である。その問題と、法人が、公益、共益、私益(収益)のうちの3ないし2の事業を行っている場合に、それぞれの事業の比率をその費用で比べるに当たって、一般管理費を別建てにするかどうかという問題とは、レベルの異なる別のものである。一般管理の作業も、以上の3類型の事業のために行われるのであるから、その費用は、3事業の費用の比率に按分してこれに算入する必要がある。ところが法律(公益法人認定法15条)はこれを別建てにしたために、実態としては公益事業の比率が50パーセントを超えているのに公益法人認定が受けられない法人が生じることになる。このことはつとに指摘してきたが、実務上も多々不都合が生じている。
 一般管理費は法人運営の基礎を維持するために必要な経費であるから、例えば、寄附収入があった場合、公益事業にこれを投入する前に、法人運営の基礎を維持するための経費にこれを充当するほかない。ところが、法令は一般管理費を別にした公益事業の経費を最優先しているから、法律どおりに運用すると、余裕のない法人はその基礎を維持できず、やっていけない破目になる。
 これは法律が理論を誤ったために生じる現象であって、早急に法改正する必要がある。
 3つは、収支相償についてであって、この規定(公益法人認定法14条)のお陰で、公益法人の事業収支は赤字であるほうが望ましく、次期繰越金が多いのは困るというような風潮が、これから認定を受ける法人の執行責任者などの間で生じている。己の存続価値を否定するような発想である。
 これもつとに指摘してきたが、収支相償を計算するに当たり、寄附金(会費を含む)や補助金、助成金は収入に算入してはいけないのである。なぜなら、収支相償は、公益事業と営利事業を区別するための1つの基準なのであって、つまり、公益事業も営利事業も、その顧客はともに「不特定かつ多数の者」であるところ、顧客の支払う代金によって事業が成り立つときは営利事業でやるべきだという、競合排除の発想を数値基準で示したのが収支相償である。ところが寄附金や寄附と同性質の会費、あるいは補助金、助成金などは、事業による収入ではない。それらは、公益事業を支援するための負担金であって、営利事業として成り立つ事業には通常支払われない性質のものである。したがって、その事業が営利事業として行うべきものか否かを判断するときに、営利事業ならば得られないこれらの収入を算入して比較するのは、明らかにおかしいのである。
 日本にはなかなか寄附文化が定着しないが、市民がそれぞれに望ましいと思う公益活動を発展させるため、寄附したりボランティアとして参加したりすることは、多様な市民公益活動が存在する、誰にも暮らしやすい社会を構築するのに、極めて好ましいことである。そう簡単に寄附金が得られるものではないが、もしある公益活動に寄附金が集まるのであれば、集まるだけ集めるのがよく、これに収支相償などという枠をはめる合理的根拠は全くない。寄附金や補助金、助成金などは、拠出者の監視が当然あるであろうから、収入額、使途、内部留保などすべて自治自立に委ねるべきものであって、法令で規制すべきものではない。
 このように、新公益法人制度にも種々問題はあるが、今回の法人制度は従前のそれに比べれば大進歩であり、これまでのジャングル状態が大幅に改善されると期待される。不具合は、民の活力を引き出すという視点から、修築していけばよい。
(「月刊公益法人」Vol.40 No.7 2009掲載)
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2008年11月20日 金融危機と福祉
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