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更新日:2010年5月15日

成年後見制度の総合的見直しを!

 成年後見制度が活用されていない。車の両輪というふれこみであった介護保険制度の方は定着した。そして、認知症患者は2百万人となり、いずれ倍を超えると推定されている。そのうち後見人によって保護されているのは12万人。自己決定権を核とする介護保険制度の中で、後見人のいない認知症患者の意思は、どう守られているのか。それ以上に、その社会生活はどう営まれているのか。法の暗黒領域は広がる一方のように思われる。
 成年後見制度が活用されない理由は、使い勝手が悪いからである。地域福祉の最前線では、近隣に認知症の発症者がいることに気付く人がいるがその情報はそこで消え、市区町村長の申立てにつながらない。一方、後見人の候補としては、弁護士、司法書士、社会福祉士などのプロが当てにされているが、やってくれそうなプロは、1万人にも達しない。巨大な潜在ニーズに応えるには市民後見人を何十万人か養成するほかないが、家裁も民事局も及び腰で、責任者がいない。
 せっかく時宜に適して生み出された成年後見制度を、急激に増える認知症患者に即応して育てるには、本籍地を法務省・家裁から厚生労働省に移し、社会保障制度の一つとして、のびのびと生長させる必要があるだろう。
 まず、制度の基本理念を、本人の保護(権利擁護)から、「尊厳の保持」という、介護保険制度などと共通の理念に高めるべきである。
 それによって成年後見制度は、本人が判断能力に欠ける状態になっても、尊厳ある暮らしができるよう身上面でその能力を補い、そのために財産を生かす制度であることが明確になる。それによってこの制度は、医療・介護などの制度とつながり、また、年金・生活保護などの制度ともつながる。行政側から言えば、包括的な対応ができるようになる。
 そうなると、成年後見制度の身上監護は、本人の尊厳保持のために提供される医療・福祉サービスに対し、本人の意思を汲み取って選択・要請を行うという重要な機能を果たすこととなる。地域では高齢者や障害者の支援が日常的に行われている。その過程で認知症の初期患者が発見されれば、発見者からの連絡で気軽に成年後見の申立てが行われる仕組みがつくれる。これによって、成年後見制度も医療・福祉などの社会保障制度も、ともに人々の尊厳の保持にぬかりなく貢献できる制度になるであろう。
 また、圧倒的に足りない後見人を市民から養成し、その活動をサポートするのも、社会保障の重要な役割ということになる。市民後見人が対応できない難しい身上問題や財産問題が発生した時は、プロの出馬となるから、その仕組みは法務省や日弁連その他の業界と協議してつくらなければならない。その程度であれば、今のようにすべてをプロでやろうとする非現実的な発想と違って、実現可能であろう。
 成年後見制度の運用を見ると、この他にも、任意後見契約が財産の横領に悪用されるとか、本来もっと多いはずの補助・保佐がはじめから後見とされ、本人の残存能力の活用という大切な目標がないがしろにされているとか、いろいろと問題がある。これも、福祉の現場とつなげて「尊厳保持」のプロにきめ細かく対応してもらうことにより解決が可能になる。
 内閣は、成年後見制度を総合的に見直して使い勝手のよいものとするべく、早急に検討を始めてほしい。

(「民事法情報」No.283掲載/2010年4月10日発行)
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