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提言 福祉・NPO・ボランティア
更新日:2018年3月9日
介護保険 地域づくりの力に

 日本は異常な東京一極集中の動きが止まらないが、それに対して地域づくり、地方創生、「我が事・丸ごと」など、地域に活力を取り戻すためのいろいろな政策が展開されている。
 地道なのが、厚生労働省が4年前から取り組み始めた介護保険関係の政策で、その基本は、身体の不自由な高齢者の生活を地域の助け合いで支えようというものである。ただ、それだけなら高齢者の生活の支え方という介護保険政策の問題に止まるのであるが、それがなぜ地域づくりになるのか。そして、地域づくりであっても、介護保険から補助金を出してこれを支援することができるのか。

■縦割りでなく

 介護保険からお金を出せるのは、高齢者のための活動である。例えば、大分県竹田市は75歳以上の方を対象に面接して、生活上何に困り、どんな支援が欲しいかを聞き、それに基づいて、市内に7カ所の「暮らしのサポートセンター」を設けた。そこを高齢者らの居場所にするとともに、そこを拠点に、高齢者の生活上必要な助け合い活動を展開している。
 しかし、ボランティアで助け合いの活動をする市民らにとっては、生活に困っている高齢者だけが対象というのは物足りない。世の中には、認知症や各種の障がいで困っている人も多いし、何かと助けが必要な子どもたちもたくさんいる。就職できない若者や引きこもりの中高年も、何とかしたい。
 つまり、助け合い活動をしようという人たちは、困っていればどんな人でも助けたいのであって、行政のように高齢者とか児童とか障がい者とか縦割りで助け合いをしようというのは気持ちが乗らないのである。
 そこで、竹田市の場合は、暮らしのサポートセンターのほかに「よっちはなそう会」という市民の集まる場所をあちこちに設けて、高齢者の生活支援に限らず、市民のやりたい活動をやれるようにした。
 そのように、助け合い活動は本質的に対象を広める性質を持っている(限定していては助け合い活動が成立しない)のであるが、タイプとして広がりやすい対象は、子どもたちである。
 かなりの高齢者は、高齢者よりは子どもの方が好きで、子どもと接していると元気になるし、自分の身体が不自由でも子どもの面倒を見たがる。
 子どもたちの通学路の安全を見守る活動に参加している高齢者は多いし、地域の居場所や学校の空き教室で子どもたちと遊んだり教えたりする高齢者の活動もあちこちで行われている。最近は「子ども食堂」が相当な勢いで全国に広がっているが、ここも多くは高齢者に支えられている。

■支える高齢者

 そこで、それらの活動を補助して支援するお金を介護保険から出してよいのかという問題が生じるのであるが、厚生労働省は「高齢者が参加して元気になっているのだから、介護予防になっている分くらいは出していい」という、気のきいた解釈をしている。これはこじつけでも何でもなく、助け合い活動や地域活動など社会活動をしている高齢者は、何もしていない不活発な高齢者に比べて、健康寿命が長いのはもちろん、認知症にもなる率もずっと低いのだから、少々の補助金を出しても、助け合い活動を行うことによって節約される介護保険の費用の方がずっと大きいということが実証されている。高齢者が行う社会活動は、本人に充実した人生をもたらすだけでなく保険料の節約にもなるのである。
 そうなると、介護保険で補助してよい高齢者の活動の対象は、支援を必要とするどんな人でもよいし、人に限らず、環境、文化その他やりがいのある社会活動なら何でもよいことになる。それは、地域づくり活動そのものである。
 現に名古屋市、島根県雲南市その他結構な数の自治体が、単位地域ごとに住民の自律的な組織をつくり、コミュニティ協議会や地域自治組織などと名付けてようとを限定しない交付金を出し、さまざまな社会活動を後方支援している。その多くは高齢者が参加する活動であり、中には高齢者を支える活動もあって、 これらには介護保険からの補助を行うことができるのである。
 地方の自治体がこの制度を有効に活用して、高齢者の能力を存分に引き出し、元気な地域の復興に取り組んでほしいと願っている。

(信濃毎日「多思彩々」2018.3.4掲載)
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