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提言 生き方・その他
更新日:2005年9月16日
「人生の四季」 カネは天下の回りもの(2)
ハーフを40でまわる男

 その男はパーで上がらないと満足しない人だった。40を超えそうになると、そこでゴルフを止めて帰ってしまうというワガママさである。アマチュアながら、毎日ゴルフをしているから、そこまでの腕になったのだそうだ。
 その男に会ったのは、一度きりである。親しい弁藷士が、ゴルフ場に連れてきた。ゴルフは超ヘタクソながら、プライドは人並みの私としては、そんな男とは絶対一緒にやりたくない。しかし、長いつきあいの親友に、「ぼくの大事なお客さんで、どうしても堀田さんに会いたいと言っているから」と頼まれると、ノーと言えなかった。
 友人が一一〇番ゴルフなので救われながらラウンドしたが、その男の好奇心は、尋常ではなかった。私の検事時代の話を際限もなく聞きたがるのである。その男の一打に達するのに私は二打、もしくは三打を打たなければならないから、忙しい。昔の話などしている余裕はないのであるが、彼は、私にクラブの振り方や芝目の読み方などを小うるさく教えながら、事件の続きを聞きたがる。私にとっては最悪のゴルフであったが、その男は間もなく五十歳になったばかりで死んでしまった。
 友人によれば、彼は四谷に大きなマンションをいくつか所有する大地主なのである。ところが、大金持ちであった彼の父親が死ぬ時、遺言で、彼にそれらのマンションを残すに際し、「残した財産で商売をすることは一切許さない。人に金を貸すことも、人に金をやることも、いけない。何もせず、マンションの家賃で生活すること」という条件を課した。その条件を守らせているのが友人の弁護士である。道理で、私がボランティア活動の意義をその男に話していると、友人は、「堀田さん、そういう話をいくら彼にしても無駄ですよ。彼は、寄付することを禁じられていますから」と言った。それならそうと、初めに言っていただきたいという気分になった。
 そういう次第で、彼は、金は入ってくるが、することがない状態に置かれ、ゴルフに熱中した。しかし、それだけでは空しくなり、愛人をつくった。一人目の時は、この世のしがらみをかいくぐり、純粋な愛を貫くことの幸せに酔いしれ、「人生は愛だ」と叫んでいたが、二人目の時、愛は純粋でないことに気付いた。
 それで、彼は、友人の弁護士事務所に日参し、友人が応じている法律相談の話を聞いて、「人生は複雑だ。人間が生きるということはこんなに難しいことなのだ」といちいち感激していたという。
 しかし、突然、死んでしまった。
 いくら金があっても、使うばかりで、自分が何かを生み出すことのできない人生というのは、身体によくないのかも知れない。

(日本経済新聞掲載/2003年12月14日)
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