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提言 生き方・その他
更新日:2005年9月16日
「人生の四季」 カネは天下の回りもの(最終回)
ある日、川淵チェアマンが来られて

 十三年前、検事の道を退いてボランティアの世界にとびこんだ時は、正直いって心細かった。夢だけは膨らんでいたが、果たして仲間が現れるかどうかも漠としてわからず、退職金だけは減っていく日々だった。
 そんなある日、渋谷に開いた小さな事務所に、Jリーグの川淵三郎チェアマンが訪ねて来られた。Jリーグの発足前である。
 初対面の川淵さんの話は素晴らしいものだった。
 「Jリーグを始めるのは、一つは日本のサッカーを世界の檜舞台に押し上げるためですが、もう一つはJリーグを核として新しい地域コミュニティをつくりたいという夢があるからです」
 そう思った原点は、三十何年か前、西ドイツ遠征で見たスポーツ施設にあるという。そこでは地域の車椅子の人が健常者と一緒にスポーツを楽しんでいた。
 「私たちは、スポーツクラブを根付かせて、こどもも大人ものびのびと楽しめる暖かい地域社会をつくりたい。Jリーグの理想は、堀田さんの目標とマッチングします。だからJリーグは、理事の満場一致で堀田さんの活動を集中的に支援しようと決めたのです」
 感動で身体がしびれた。
 初めての寄附の時、川淵さんは理事さんたちの前で、「寄附させていただいでありがとうございます」と言われた。目をパチクリさせていると、「寄附はそういう気持ちでするものだということを、私はアメリカで学びました」と説明された。
 さわやか福祉財団の活動に賛同していただいたニコス(日本信販)とともに、以後十二年にわたり、Jリーグはわが財団を頼もしく支えて下さっている。そのうえ、川淵さんは、個人として、その誕生日に、少なからぬ寄附をして下さる。日本サッカー協会のキャプテン(会長)になられた後も、変わらない。
 連載の最後となる本稿を書くため、私は川淵さんのところへ取材に出かけた。
 「妙なことを聞きますが、川淵さんが寄附して下さるお気持ちを教えていただけませんか」というと、戸惑っておられたが、「もちろん共感して寄附するのですが、使い方について信頼できることが大事ですね」とうれしい答えであった。額は自分にとって少し痛いと感じる位がよいとのこと。そして「これはあなたに教わったのですが、お金で出すのも労力を出すのも等価値だということです。そう考えると、気が楽ですよね」と話された。
 私もわが財団に対してだけでなく、心が深く動く先に寄附をするが、川淵さんに同感である。アフガニスタンやイラクの難民に寄附すると、わがことのように平和を願う気持ちになるし、北朝鮮のこどもたちのために寄附をすると、飢えに耐える彼らを圧政から救い出したいという熱い思いが湧いてくる。
 お金も、人のために使えば、共感と愛情を深めるのである。

(日本経済新聞掲載/2004年3月28日)
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