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提言 教育
更新日:2005年12月29日
血のかよった言葉

  進んで何かをやろうとしない人間、目の前で起きている問題にすら気が付かない人間、仕事のやり方までいちいち指示されなければどうしていいかわからない人間。
  会社にも官庁にも、それ以外の社会にも、そういう人たちが増え続けている。これから日本は、個々の人々の能力を生かして多様なサービスや製品を作り出し、世界の先進国と競っていこうという時に、これでは落ちていくだけである。国の経済力が落ちるだけならまだいいが、国に住む人みんなが活力を失い、生きがいを失ったのではどうにもならない。
  いろんなことに好奇心を示し、自分にとって楽しいことをやりながらみんなにも役立ち、問題が起きれば自ら積極的に取り組んで自分の知恵で解決していく人間。
  これからの日本に必要なのはそういう人間である。教育界はこぞってそういう人の育成に取り組んでほしい。
  その熱い期待に応えてやっと登場したのが総合的な学習の時間というカリキュラムであった。子どもたちが、自分の眼で見、自分の頭で考え、自分で問題に取り組む体験をする。今、求められる人間の育成にとってこれ以上有効なカリキュラムは考えられない。
  ところが、国際学力調査の結果、順位が落ちたというただそれだけのことで「もっと勉強させろ」と大声をあげる権力者が出てきた。そこでいう「勉強」とは、知識教育をいうらしく、最高の人間教育である総合的な学習の時間も白い眼で見られ始めた。
  しかし、このカリキュラムにしっかり取り組み、子どもたちの人間的成長を実感した教師たちは、声なき声をあげた。
  「総合的な学習の時間で意欲や挑戦する気持ちを培った子は、何に対しても能力を発揮できるようになる」「教育行政のトップの方が、なぜ総合が生まれたかを理解していないのではないか」「総合的な学習に取り組む能力も意欲もない教師が、これに反対している」「人間が生きていく上で、何が必要なのかをしっかり見つめると、必然的に生活科や総合は必要になってくるのではないか」(日本生活科・総合的学習教育学会アンケートの自由記述から摘記)。
  私は、「金八先生」の小山内美江子さん、右学会の会長で、前文部科学省主任視学官の嶋野道弘さんらと「総合的な学習の創造的な展開を推進する会」を結成し、この8月7日に緊急シンポジウムを東京で開いた。この問題を含めて、指導要領についての意見をまとめる秋の中教審教育課程部会の答申に反映してほしいと願ったからである。
  北海道から九州まで、この学習の存続を願う教師たちが参加してくれて、会場は熱気に包まれた。特に、パネリストとして登場してくれた小学生から大学生たちの発言が素晴らしかった。
  「それまでは、人前で話すのが苦手だったけれど、中学校で自分の町について3年間調べた時、どうしても地域の人たちに手伝ってもらわなくてはならないので、自分の思いを伝えようと頑張っているうち、自分が変わっていった」(高校生)
  「小学生の時、空き缶集めで、高い目標を立て、自分で立てた目標だからと諦めずに取り組んでいるうち、つらい勉強でも、最後まで頑張れるようになった」(中学生)
  生徒、学生らは、それぞれの総合的学習の時間の体験をもとに、「自分で考え、行動する力がついた」「人の気持ちに立って、交渉できるようになった」「世の中や周りを見る目が変わった」「自分の心と向き合って、自分の力で探り、見つけ出すようになった」「責任をもって生きていくということがわかった」「人と人は絆で結ばれ、その絆は暖かいことを学んだ」などなど、珠玉のような言葉で成果を語った。
  担当した教師は、「やれるならやらせてあげよう、子どもを信じて待っていようという覚悟が、自然にできた」と話した。大切なことである。教科を教えているだけでは、この大切な覚悟ができなかったのであろう。
  そして、母親も発言した。「総合的学習の時間で、子どものコミュニケーション能力がつきました。そして、高い目標を立てた時、できるかなと先々の不安を考えるよりも、できることからやってみて、発展させていく力もついたと思います」
  これこそ、今の社会人、これからの日本を担う社会人に、もっとも必要とされる能力ではなかろうか。
  教育の基本的目標である人間性の育成は、テストで測ることはできない。しかし、子どもが人間的成長を遂げたことは、誰よりも親が、そして、次に子どもと本気で接する教師が、肌身で知っている。
  私たちは、知識についてのテストの平均点よりも、血のかよった彼らの言葉を信じて、教育の仕組みを考えたいと思う。

(総合教育技術(小学館発行)掲載/2006年1月号)
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