政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2008年5月23日

選択できる政策の提示を

  前回の衆院選挙で、国民は、「構造改革を大胆に推し進めよ」と言って、小泉さんに3分の2を超える議席を与えた。小泉さんは、辛うじて郵政改革は成し遂げたが、道路行政などの政官財癒着の構造も、中央支配構造も打ち破れず、退陣した。
  あとを継いだ安倍さんは、構造改革にも、その副産物である格差の是正にも正面から取組まず、迷走したため、国民は、前回の参院選挙で、民主党に対し、過半数を与えた。「格差を是正せよ」というメッセージを出したのである。
  しかし、民主党は、格差是正の政策を打ち出せず、政権を奪うこともできず、政治は低迷している。
  その間、二つの大きな政治課題が浮上した。道路特定財源問題と後期高齢者医療制度問題である。
  この二つの問題は、ともに格差是正に関連する問題である。
  後期高齢者には、格差に苦しむ経済弱者がかなり居て、それらの人たちからどれだけの保険料を徴収するかが、問題の本質である。爆発した不満は、「こんなに生活が苦しいのに、年金からそれだけの額を天引きするのは止めてくれ」ということなのだから、格差是正を推進する立場からは、その厳しすぎる分を、別の財源で埋める政策を主張するのが正道である。
  その財源たりうるのが道路特定財源である。この問題は、「特定財源分の税金を、これまで通り道路に使うのか、それとも後期高齢者のうち生活が厳しい人たちの保険料を負担するなど、格差是正に使うのか、あるいは、どう使うかは地方に委ねて交付金にするのか」という選択の問題である。暫定税率分廃止という選択肢もある。
  構造改革を進めながら格差を是正しようとすれば、その財源が必要になるが、それは現実的には消費税しかないであろう。しかし、小泉さんも言っていたように、増税の前に、徹底的に節約をして必要な財源をひねり出す必要がある。その最たるものが、道路にかける公共事業費の節減であろう。
  このように、一方で構造改革の断行を支持しながら、他方でその負の産物である格差の是正を求める国民の志向に応えるために、願ってもない問題が提起されたのであるから、政権奪取を目論む民主党にとっては、国民の期待に応える能力があることを証明する絶好のチャンスであった。
  ところが、残念ながら民主党はこの2つの問題を結びつけることをせず、後期高齢者医療制度についてはこれを廃止してもとの制度に戻すという、実に後ろ向きな政策しか示せなかった。もとに戻せば、現役世代が納得できない負担の過大化という大問題が、再び現実になるだけのことである。
  道路特定財源問題についても、暫定税率廃止という耳障りのよい主張をするだけで、これを格差解消という大命題に結び付けて案を提示し、国民の期待に応えるチャンスをあたら逃している。
  そのように、政権担当能力に首をかしげざるを得ない態度を取り続けながら、政局に追い込もうとしても、国民が白けていてはそれは成功しないし、かりに選挙になっても、勢いは高まらないであろう。二大政党の下では、敵失だけでは政権を得られず、国民の関心の深い問題について政策で支持を得る以外に、勝つ王道はない。
  構造改革は、国際競争力の強い産業を生み、よりよいモノやサービスが提供される点において、国民にとっても有益であるが、働く環境が劣化し、地方の経済力が低下する点は、有害である。
  そのマイナス点を除去するという大きな視点から、整合性のある建設的政策提案をすることが民主党に求められる。働く者が働き方を選択できる仕組みの構築や、地方への課税権の移動などである。国民が二大政党制に賛成したのも、基本的な政策の選択を行いたいからにほかならない。
(電気新聞「ウェーブ」2008年5月22日掲載)
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