政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2009年3月9日

物足りないオバマ演説


  オバマの就任演説が感動を呼んでいる。確かに、理想に向かう現実的な道が示され、心に響く。しかし、世界をリードする国の呼びかけとしては、物足りない。
  第1に、外交政策としては、戦争の根絶という人類共通の理想に向けて、核だけでなく武器の軍縮を呼びかけてほしかった。アメリカは勝手に世界の警察官を自負し、ベトナム戦争やアフガン、イラクなどで戦争に踏み切り、イスラエルの戦争を支持してきているが、どの戦争も、無辜の民の犠牲があまりに大きい。20世紀以降、世界に広く人権感覚が浸透し、命の重さが実感される社会が普遍的になっているのに、いまだに戦争をもって事を解決しようとするアメリカの姿勢は、いかに正義のためとはいえ、もはや野蛮国のように映る。世界は、正義の実現を法に従って行うべき文化のレベルに達したのである。
  テロに対しては、戦争に代えて世界の警察力で立ち向かい、一人の犠牲者も出さずにテロリストを法の網で打ち取ろうと呼びかけてほしかった。2月24日の施政方針演説で、オバマは、アフガンなどで同盟国と共に過激派を倒す新しい戦略を練ると言ったが、イラク戦争のような形でなく、警察力の行使という考え方に転換すべきである。
  第2に、グローバル経済のリーダーとしては、経済倫理の世界的確立と食糧・エネルギー資源の世界的管理を言ってほしかった。
  今回の世界同時不況の責任は、アメリカにある。オバマは、アメリカの衰退を恐れるだけでなく、世界の勤勉な人々を不当に不幸にしたことを反省し、早急に、二度とこのような事態を引き起こさないためのグローバルな方策を確立しようと訴えるべきであった。
  オバマは、施政方針演説では、就任演説を一歩踏み出し、市場の監視だけでなく、ルールの設定を議会に求めている。それは、「時代遅れとなった規制を刷新するための立法」だという。しかし、今回の危機は、新しい金融工学に基づき、内容がわからない債権を投資の対象としたところ、混入していた不良債権がはじけて、一挙に信用の下落がひろがったことにあるのではなかったか。それならば、金融や投資対象を徹底的に透明にし、過剰なリスクを市民に課さないルールが必要であろう。そのようにして投機を排除する方策を、世界に示す責任があると思う。
  今や70億に達しようとする世界中の人々のために、食糧とエネルギーを適正に配分する強固な仕組みを創設することも、喫緊の課題である。命の源である食糧とエネルギーの配分について、昔ながらの投機を許してはならない。それこそは、富者による弱者からの収奪である。オバマが言う「正直」とか「フェアプレーの精神」などで富者の専横が止むことは到底期待できない。新しい発想に立つ斬新な仕組みが必要である。
  最後に、アメリカ経済の転換を強調してほしかった。
アメリカ経済は、その軸を投資、金融から、生産、サービスという実体に移さなければならない。オバマが労働、商品、サービスの力を説いたのは適切であり、再生、成長路線としてデジタル通信網の敷設やグリーン・ニューディールをうたったのは、未来を築く正しい方向であろう。就任演説にあった「道路や橋の建設」は、施政方針演説では、雇用対策のための一時的なものとされ、未来のための対策として、エネルギーのほか、医療と教育が強調された。これも好ましい方向である。アメリカ経済が継続する繁栄を築くには、モノでもカネでもなく、まずヒトへの公共投資をして基礎を固めなくてはならないからである。実体経済を、ヒトへの公共投資を基礎に再構築するという路線を、もっと大胆に打ち出してほしかったと思う。

(電気新聞「ウェーブ」2009年3月4日掲載)

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