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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2007年7月4日

行政と、ポイント制について話してみては?

  お役所としては、ずいぶん思い切った判断をしたものである。去る5月7日、厚生労働省が、介護支援のボランティアにポイントを付け、これでそのボランティアの保険料を納めるのを認めた。その財源に、国の市町村に対する交付金を使ってよい、と、同日付の通達で明言したのである。
  アメリカでカーン博士が主導しているタイム・ダラーも、ボランティア活動で得たタイム・ダラーで社会保障の保険料などを納めることが、ある程度認められていた。カーン博士は、保険料などを納めることができない貧しい人々が、これによって誇りを持つことができると説明していた。しかし、これを認める自治体は広がっていなかったところ、期待していなかった我が国の厚生労働省が、これを認めたのである。快挙といえよう。
  事の起こりは、自治体の知恵であって、東京・稲城市が、千代田区と組んでポイント制を認めるように提唱した。当初消極的であった厚生労働省も、福祉サービスの手詰まり感が深まる中、ルビコン川を渡ったのである。
  では、私たちふれあいボランティア活動を展開してきた団体は、どう対応すればよいか。
  まず、ポイント制が関係すると思う団体は、それぞれの地域の自治体(市区町村)が、ポイント制を採用するかどうかの情報を集めることである。
  厚生労働省は、自治体がポイント制を採るならば財源(保険料に充てられるポイントを換算して自治体に払われる資金)に国の交付金(地域支援事業交付金)を使ってよいと言っただけであって、ポイント制を採用するかどうか、どんな形で採用するかは、自治体の判断に委ねられている。そして、現段階では、ほとんどの自治体が、まだ白紙の状態と思われる。そこで、まず、自治体の介護保険担当セクションと情報のチャンネルをつくっておくことが有効であろう。
  その際、自治体が採否の検討をする時は、協議会方式によるにせよ、非公式な内部検討によるにせよ、自分たち福祉ボランティア団体の意見を必ず聞いてくれるよう申し入れておくことが望まれる。検討を社会福祉協議会に委託する場合も、同じである。
  参考のため、ポイント制について気づいたことを略記する。

1.報酬を支払って依頼すべきサービスを、
  ポイントで釣ってボランティアとしてさせるようなことがあってはならない。

  報酬を払うべき仕事(労働)とボランティア活動とは、明確な区別はできず、両者が重複する領域があるが、区別する基準の一つは、事業主体が営利事業か否かである。営利事業のためにボランティアをすることは、特別な事情がない限り、ない。非営利事業の場合は、事業主体とボランティアとの合意で決まるが、平時のボランティアに関する一般的な基準として、専門性の高い仕事、拘束性・義務性の高い仕事(継続的な仕事や指示通り行われなければならない仕事など)、責任の重い仕事、精神的要素が乏しく、やりがいが感じにくい仕事などは、ボランティアになじみ難い。技術の訓練を要する身体介護や、夜勤、行事の総括指揮、連日のおしめの洗濯などである。これらと反対の要素が強い仕事、たとえばお話、散歩の付き添い、イベント参加などはボランティアに適した仕事である。掃除や外出支援、それに重度でない人の入浴、食事、着脱などの介助などは、一般に、ボランティアも担当できる仕事である。
  要するに、ボランティア活動の報酬は、社会に貢献できる仕事に取り組むことで得られる充足感(生きがい)なのであり、それを得るかどうかはボランティア本人が決めることであるから、自発性が活動の生命となる。自発性に委ねられない仕事については、金銭による報酬(労働の対価)を支払わなければならない。
  ポイントは、いわゆる有償ボランティアにおける謝礼金と同じく、労働に対する報酬ではない。従って、その換算額は、当然に最低賃金額より低い比率で設定されなければならない(そうしないと、各種労働法規の違反問題が生じる)。
  その一方で、ポイント制によって、実質的には労働と認められるような仕事(拘束性・義務性が高い仕事など)をさせると、これも労働法規の違反になる。
  これが、基本的な留意点である。

2.むしろ在宅サービスに適用しよう。

  提案者の稲城市の例示を見ると、同市はポイント制を適用する活動を、施設の補助的業務を中核にしている。行政の気持ちもわからないではないが、今は行政も含めて施設から在宅へと重点を移している段階である。また、ボランティア活動により適しているのは、一般的に言って、施設サービスよりも在宅サービスである。施設サービスの中では、施設のルーティンな仕事よりも、地域に開いた活動の方がよりボランティア活動に適している。在宅でその人らしく暮らすのを支えるのに、ポイント制は合うのである。

3.いわゆる有償ボランティアにも、ポイント制は活用できる。

 ボランティア自身は謝礼金を受け取らないNALC(ニッポン・アクティブライフ・クラブ)のような団体はもちろん、ボランティアが謝礼金の全部または一部を受け取る団体であっても、ポイント制を適用する効用はある。謝礼金は利用者が気後れしないでサービスを受けるためのものであるから、ポイント制であってもこれを払う意義が大きいし、ポイントを使うボランティアが受け取るはずの謝礼金は、利用者の気持ちで、団体に寄付すればよい。それが団体の活動支援になる。そのボランティアも、その活動を行政がポイント制適用により認知、支援していることで、より強くやりがいを感じるであろう。
  また、ポイント制は、最大限ボランティアの保険料額を限度とするから、ポイントを目的とするボランティアは、限度額を超える活動には消極的となるおそれがある。その問題は、有償ボランティアと組み合わせることにより、消える。

4.ポイント制の大きな目的は、高齢者の生きがいであることを認識する。

 ポイント制の原資となる交付金は、地域支援事業交付金であるが、地域支援事業には、介護予防事業のほか、任意事業の一つとして、「高齢者の生きがいと健康づくり推進事業」が定められている。
  相手方の生きがいと健康に資する活動のほか、そのボランティア活動が、活動する高齢者自身にとって、生きがいと健康の推進に役立っていることが評価される。これを強調すれば、居場所の活動も対象とすることが可能であろう。

5.ほかにも、ポイント制を地域包括支援センターのネットワークに組み込むことなど、自治体の協議が始まれば、団体の実情に応じて提言をすることが求められる。
  ただし、大切なことは、ポイント制が適切に活用されることである。現段階では、多くの自治体が無視するか、検討しても消極に傾く可能性が高い。ボランティア活動の意義とネットワークの必要性を介護保険担当官に理解させるチャンスでもあるので、話を持ち込む意義は十分ある。

(『さぁ、言おう』2007年7月号)
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 [日付は更新日]
2007年6月6日 人間開花社会をつくろう
2007年5月9日 勤労者の「人間力再生」に向けて
2007年4月7日 時代の流れを把握する
2007年3月9日 教育再生民間会議の提言
2007年2月9日 介護保険改正をどう捉えるか?
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