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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2011年5月6日

復興は「地域を施設に、そして家庭に」

 この原稿は、締切の関係上3月18日現在で書いているので、本誌発行時には、これから提言することが実行されているものもあろうかと期待している。
 執筆時は、放射能問題解決の兆しも見えない段階で、安否不明者が1万6千人以上いて、生存者の生命維持に大わらわの時期である。
 その段階から復興への道筋を想定すると、今は、基本的なライフラインの確保に全力を注ぐべき時期である。電力、ガス、水道などの回復が、阪神・淡路大震災の時よりかなり遅れている。
 被災した方々が避難所にとりあえず落ち着かれれば、生活支援ボランティアの出番である。生命の維持に向けて、精神面も含め、お力にならなければならない。
 阪神・淡路、及び中越の支援活動の経験からいえば、避難所生活及び仮設住宅暮らしにおいて重要なことは、被災者たち、特に生計を支えてきた男性たちが、希望を持って、これまで暮らしてきた地域の復興に取り組むことである。
 私たちボランティアは、物資や労力の提供に励むとともに、精神面での交流などを推進するが、これまでの経験によると、子どもたちはもちろん、女性の多くは、見知らぬ被災者と交流し、激励し合うのに対し、働き盛りの中年男性は、交流が苦手な人が少なくない。悩みを隠し、ストレスを溜めて衝突しやすくなる。前が見えず、また、プライバシーのない不自由な生活の中ですることがないからである。
 仮設住宅は、中越地震の時のように、住んでいた地域が同じ者同士が隣り合って入れるよう手配すべきである。避難所はそうはいかないであろうが、それでも、避難所に入っている時から、同じ地域に戻る予定の人々が集まり、地域の復興を協議し、自分たちがどう取り組むか、また、行政には何を求めるかなどを、論じ合ってほしい。その中から、希望も絆も生まれ、協力し合う行動も生まれる。
 共助の力である。
 私たちボランティアは、支援活動をしながら、そうして自助と共助の力を引き出すよう誘導したい。
 行政も、地域復興住民協議会を地域ごとにつくるよう協力してほしい。

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 そのように、復興を目指してみんなで力を合わせるに当たっては、目指す町の姿を共有することが大切だと考える。
 特に、今回の大地震では、津波のため町が崩壊したところが少なくないことが、特徴である。この不幸な事態を生かして、阪神・淡路でも中越でもできなかった「市民がもっとも暮らしやすい町や地域を、新しく創造する」という理想を、一挙に実現してほしい。それができるのは、このチャンスしかない。

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 では、目指す理想の町の具体的な姿は、どんな姿であろうか。
 それは、町の産業や種々の社会的、自然的な環境、歴史、生活ぶりなどに応じて異なるのであろうが、少なくとも、次の2つの理念は、共通だと思う。
 1つは、「地域を施設にする」という、地域包括ケア−24時間巡回サービスの理念である。これについては、行政の福祉関係者が、町づくりの当初の段階から、しっかりした理念を持って公共の建築をリードしてほしい。病院や施設のあり方、集合住宅や各戸の様式などが、従来のものとは相当に異なるものとなる。
 もう1つは「地域を家庭にする」という、ふれあい、いきがいの理念である。
これは、私たちの分野であり、主としてソフトの領域に属するが、人の集う拠点をつくることなど、ハードにも関連する。
 先に提言した避難所、仮設住宅暮らしの段階における地域復興住民協議会は、この理念に立って構成し、運用することが好ましい。
 被災者支援に係わるボランティアは、ここで述べた提言を自分のものとし、生かしてくれれば、永く将来の幸せを生み出す草の根の町づくりに貢献することになるであろう。

【追記】
 被災者のふれあいを推進する活動

 この原稿は、4月8日に、無理に印刷に押し込むものなので、誤植等があっても許してほしい。
 被災地はまだまだ緊急支援が必要な状況であるが、避難所でも、地域復興に向け、動き出す住民の方々も出始めている。私の「地域復興住民協議会」「地域包括ケア体制とふれあい・いきがいのある町を目指す復興」の提言は、厚生労働省各部局で共有されたが、動きはまだこれからである。
 さわやか福祉財団は、4月初旬の段階では緊急支援活動に重点を置き、週日毎朝、義援金募金の辻立ちを行い、被災地で緊急支援活動をしているNPOなどに義援金を届けている。しかし、物資もある程度は行き渡ってきており、時期をみて、被災者ふれあい活動に重点を移していく。
 被災者のふれあい活動は、一つは、被災地の避難所や仮設住宅などでのふれあいを推進するものである。
 すでにインストラクターで、避難所に車を持ち込み、これを被災者たちの居場所にする活動を始めた方もいる。阪神・淡路大震災では、中村順子さんの主導で、ふれあいパラソル、ふれあいテントや仮設住宅のふれあいルームなどを開いた経験があるが、形は問わない。被災者たちや、地元の方々が、なんとなく集まり、思いを語り合い、くつろぎ、交流する場が必要である。そこで、心の傷がいやされ、前向きに生きる力が湧いてくる。やがて、地域(時間)通貨をつながりにも発展する可能性がある。
 もう一つは、見知らぬ他県、他地域に集団で避難した人々と、地元の人々とのふれあいの推進である。
 孤立した思いに追い込まず、どこに移ってもあたたかく迎え、包み込み、住み慣れた土地と変わらぬ安心感、充足感をもたらす。これこそ、わが財団が目指す「新しいふれあい社会の創造」を劇的に実現する活動である。
各地のインストラクターたちと協働し、柔軟なやり方で積極的に創り出していきたい。

(『さぁ、言おう』2011年5月号)

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2011年1月 7日 幸せあふれる超高齢社会
2010年12月 8日 認知症者のケア
2010年11月10日 ケアされる人のいきがいの仕組み
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