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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2013年9月10日

私たちで軽度者を引き受けよう

 比較的軽度のケア対象者を介護保険制度から外すという話が、ついに本格化した。社会保障制度改革国民会議は、8月6日付報告書で、要支援T、Uに対する介護予防のサービスを外し、それらのケアを市町村福祉に委ねるという基本方針を決めたのである。このまま策を講じないでいけば、介護保険料が月1万円にまでなってしまいそうだから、「重点化、効率化」によって出費を抑えようとするのは当然だが、軽度のケア対象者に対する支援を止めたのでは、元の木阿弥で、重度になる人が増えてしまう。
 外れた人たちに対するケアは、地域包括推進事業(仮称)として市町村福祉に委ねるというが、そこでのサービスを今よりもっと充実し、しっかり受け皿をつくってから外すというのが正しい対応である。国民会議報告書の次の一文を強調しておきたい。「市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。」
 とはいえ、市町村は、国よりお金がない中で、どのようにしてより良いサービスをつくるのか。私たちは、7月29、30日に仙台で開催したブロック全国協働戦略会議で、全国のインストラクターたちと、じっくり議論をした。要するに、「ボランティアの活動でお金の支出を節約しつつ、より良いサービスを提供しよう」という発想であるが、その基本的戦略の概要は、次のとおりである。

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 私たちは、全国各地でふれあいボランティア活動として、地域の助け合い活動を展開してきた。私たちの活動によって、要支援のクラスなら支えられる。私たちの活動は、本人のいきがいや能力活用、精神的交流などに重点を置いているから、本人の尊厳という視点から見れば、型にはまった介護保険制度によるサービスよりはるかに質が高いし、改善効果も大きい。
 しかしながら、行政から見れば、私たちの活動はとても全国全地域をカバーするほどの広がりはないし、そうなる見通しも立たない。
 また、私たちから見れば、私たちの活動は「志」が生命なのであって、対象者や支援方法などを画一的に限定され、行政から押しつけられたのでは、活力を失い、しぼんでしまう。
 ではどうするか。
 全地域カバーの問題は、市町村単位で、多様な支え合い活動をしている各種の団体とネットワークを組むことによって対応しよう。これまで私たちは10年以上、生協、農協やNPOなどとの地域ネットワークづくりを試みてきた。その人脈とノウハウを生かそう。社協はもちろん、生活支援(配食サービス、家事サービス、移送サービスなど)をしている営利事業者や、介護予防のスポーツ事業者などともネットワークを組めば、今のサービス以上のサービス網を張ることも可能になるだろう。
 また、私たちがふれあいボランティア活動の「志」を守りつつ市町村の福祉に参加できるかという問題は、まずこれを守るということが私たちにとって絶対の前提となる。守れないなら参加できない。
 そこで、この問題は行政(市町村)がどこまで私たちの活動の本質を理解するかにかかっている。私たちの活動は、お互い様の精神で助け合うから、ケアする側も相手から何かを教えてもらったりする。だから、お互いにいきがいを得て、生活に張りが生じ、両者に介護予防の効果が出る。助け合いや、その基盤となる居場所での交流は、高齢者に限らず、子どもたちや身体障がい者、認知症者、一般健常者など、地域の「志」ある人たちみんなが参加するものでないと、持続しない。逆にそういう形で助け合いが行われると、その効果は、ケアする側とされる側を分けたコントロール型のサービスよりはるかに効果が大きいし、何よりも、みんなが楽しい。
 そのことを行政が理解すれば、そういう柔軟な活動を支援するはずである。行政のことだから、出せる補助金は高齢者関係の活動だけなどと言い出すであろうが、そこは参加した人々の記録から要支援クラスの高齢者の数を出して計算するとか、智恵はいろいろ出せる筈である。
 国や県が打ち出した形式的基準に従ってやるだけというような魂のこもらない対応をするのか、住民の幸せのために実のある対応をするのか、それぞれの市町村の姿勢と力量が住民の眼に見えてくるであろう。

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 それでは、市町村はどうすればよいのか。
 実は、国は、軽度のケア対象者に対応する仕組みを、すでに整えている。それが地域支援事業であり、その中でも介護予防・日常生活支援総合事業である。昨年度から市町村の手上げ方式で実施されている事業で、介護保険の事業費を原資に、要支援と非該当を行き来する高齢者や虚弱、引きこもりなどの高齢者に、元気高齢者の力も借りて、介護予防サービスや生活支援サービスを提供する事業である。これを、要支援T、Uの高齢者をも対象とする事業にするということになるが、昨年度に実施した27の自治体の事業をみると、社協に委託したもの、地元NPOに委託したものなどがあるものの、要支援T、Uへのサービスに代われるものにはなっていない。市町村は、社協、NPOだけでなく先に挙げたようないろいろなサービスの力を借りて、この事業を拡大していかなければならない。
 その時、従来の委託事業のようなやり方で事業をやるのではなく、地域ケア会議あるいは新しい住民参加の協議会に多くのサービス提供者の参集を求め、そこで、ネットワークを組んでトータルにおいて総合的にサービスが提供できる体制を、じっくりと協議してもらうことが望まれる。その際留意すべきは、それぞれのサービス提供者の自主性を重んじ、形を押しつけないことである。そうでないと、従来の委託事業のように型にはまったサービスになり、結局、介護保険から外したサービスと同じかそれ以上の資金が必要になる。国はいずれ介護保険の予備費から出す資金を大幅に削ってくるであろうから、市町村の財政はもたなくなる。
 一方、私たちは、どうするか。
 ブロック全国協働戦略会議で、いくつかのブロックがまず勉強会を開く工程表をつくった。行政の担当者の参加を求めたり、ネットワークをにらんで他団体のメンバーの参加を求めたり、勉強会のレベルはブロックごとに違うし、また勉強会を飛ばして個々のインストラクターが地元の地域ケア会議に参加したり、地元でネットワークを組む会議をいきなり呼びかけする戦略にしたブロックもある。
 併せて、各ブロックとも、地元の行政に対し、各インストラクターが提言することにしている。それぞれの事業の内容を説明すると共に、ネットワークの戦略や日常生活支援総合事業として行う事業の内容も提言する。その内容は、居場所、有償ボランティア、時間預託、地域通貨、ポイント制ボランティアなど、私たちがこれまで展開してきた事業であって、地域に合うものである。そして、これらの事業が介護保険事業とうまくドッキングするように、地域包括支援センターで、元気高齢者の段階からケア関連情報を集積し、これと介護保険サービス情報も併せて集積していこうとの意見も出た。
 多くのインストラクターが、日常生活支援総合事業を実施するかどうかについて、これまでに地元の自治体の担当者と意見交換しているが、彼らの共通の意見は、「行政は、総合事業のことをまるでわかってくれていない。これからは、私たちの方で頑張って受け皿づくりを進めるしかない」というものであった。
 頼もしい。一緒に頑張っていきたい。

(『さぁ、言おう』2013年9月号)

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 [日付は更新日]
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2013年 7月12日 包括ケアへの復興を拒む厚い壁
2013年 6月12日 ハードはソフトのためのもの
2013年 5月 8日 復興応援の地域通貨
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