政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2010年3月31日
人材をどう育成する?
 「この数年、トヨタの成長のスピードが速すぎるのではないかという懸念があった。企業の拡大に人材育成が間に合わなかった面もあるかもしれない」。米公聴会での豊田社長の証言には、ハッとさせられた。ありがちな現象についての正直な所感なのかも知れない。
  しかし、どう対策をとるのだろうか。成長のスピードをゆるめると共に、間に合わなかった人材育成をその間に進めるのだろうか。それにしても、育つまで誰がもとの職責を担うのだろう。
  トヨタの内部事情はわからないから、トヨタ問題を離れての一般論を言えば、大組織病がある。人材育成のいかんにかかわらず、組織が大きくなると、職務分担が進み、それぞれが責任を逃れようとする。顧客のための仕事だということを忘れ、己の分担した職務を無事に終えることが日々の目標となる。仕事を細分化すればするほどこの傾向が強くなるのは、自己保身が人の基本的な欲求だからである。
  ボランティアの分野にはいろいろな職歴の人々が参加してくれるが、自分の思いのままにやりたいようにやれるボランティアの世界ですら、大企業や官庁のOBたちはきわめて優秀な判断力を持ちながら、自分が責任を取るようなことには手を出そうとしない傾向が顕著である。もとからそうだったとは思えないから、長年にわたり組織で染みついた習性がそういう行動パターンを生むのであろう。
  大組織でほぼ必然的に発生するこの病根を摘出するのは、たいへんなエネルギーを要する。創造の前に破壊が必要だから、ゼロからのスタートの倍の力が必要なのである。
  それだけでも大変なことなのに、近年は創造力に満ちているはずの若者たちが、就職する前に大組織病のような病(やまい)に罹患していて、新人を充ててもゼロからのスタートとならないという大問題がある。
  Jリーグチェアマンの鬼武健二さんに「どうして日本の選手はなかなかシュートしないんですか」と聞いたら、「いやぁ、自分で責任を取るのが嫌なんでしょうね」という答えである。
  親と社会に飼いならされた偏差値人間が指示待ち族になるのは、わかる。偏差値を捨てて己の競技能力に人生を賭けたサッカーのエリートが、チャンスが来たのにシュートしないでどうするのか。
  「子どもの頃から親も社会も、言われたとおりやるように教え込んで来てますからね。そう簡単には直らないんですよ」と鬼武さんから聞くと、20歳前にプロになっているのに、その若さで修正が難しいのかとガッカリする。己の能力に賭けず、言われるままに大学を出た大多数の若者たちが、指示待ちの無気力人間になるのをどう防ぐのか。
  ことは人材育成の問題でもなく、大組織病の問題でもなく、幼い頃からの育て方の問題なのである。つまり、トヨタの問題でなく、日本の問題だということになる。これが豊田社長の発言を聞いて、直感的に感じたことである。トヨタは先駆的に問題を提起してくれたのであり、私たちすべてがその問題をしっかり受け止めなくてはいけないのではないか。
  ではどうするのか。
  積極的に問題に取り組み、自分の頭で答えを探し、ことを解決して人に幸せをもたらすことを己の生きる喜びとする人間を、育てるほかない。
  そういう喜びは、親や教師が仕切っていては生まれない。子どもたちが、仲間との遊びに夢中になりながら、日々の体験の中で、身に付けていくほかない。
  少子化がその環境を奪った。しかし子育てや教育の専門家及び文部科学省の担当官の多くはまだ子どもたちを仕切ろうとしている。教える側の人々は目前の現象から学ばないのかと不思議に思う。

(電気新聞「ウェーブ」2010年3月4日掲載)

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