政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2010年7月22日
早急に基礎を改修せよ
 この4月と5月に、国の公益認定の実務がかなり改善された。初年度は、公益認定等委員会に属する各省庁出身の官僚によって、昔の公益法人の許可とあまり変わらない、恣意的な事前審査が行われ、認定作業はほとんど進まず、そのうえ、当然認められるべき優良な団体が誤った指導で申請を諦めるという不当な結果を惹起した。これを、事前審査に当初から公益認定等委員が関与するように改め、また、法律、会計の専門家たちによる事前相談の仕組みを作ったことにより、審査のスピードは相当早まるものと期待される。
 ただ、審査の結果が適正になる保証はない。
 新公益法人に対する税制は、若干の問題を除いて良いものとなっているが、法人制度の出来が悪い。基本の考え方が詰められておらず、実情にも合わないからである。その一例として公益目的事業比率を取り上げる。
 まず、経常的経費(公益認定法15条3号)を削除し、これを公益目的事業経費と収益事業等経費に按分して、公益目的事業比率を計算するように改めるべきである。
 確かに、会計上は、事業の経費と一般管理費(経常的経費)とは区分して処理すべきである。実際の伝票処理も、そのようにせざるを得ないであろうし、業務の実態を経費面から把握するためにも、そうすることが必要である。個々の事業にどれだけの費用を掛けているかの実態と、事業全体の運営のためにどれだけの費用をどのように掛けているかの実態を把握しなければ、経営判断はできない。これは、企業であろうと公益団体であろうと同じである。
 しかしながら、ある団体がどれだけの公益目的事業をやっているかを費用面から判断する時には、その費用が個々の事業の経費か一般管理費かは、関係ない。個々の事業の経費はもちろん、一般管理費も、事業を遂行するための経費である。その団体の事業がすべて公益目的事業であるなら、一般管理費の額いかんに拘らず、その団体の公益目的事業の比率は100パーセントである。公益目的事業と収益事業等の直接の費用が50パーセントずつであれば、その団体の公益目的事業比率は50パーセントになる。
 ところが法律が一般管理費を別建てにしたため、公益法人やこれをめざす法人は、全体事業のための事務所経費や人件費等を無理矢理区分して事業の直接経費に入れている。その事業に専従する臨時職員の人件費ならそれでよいが、常勤職員の人件費まで、観念的に区分して事業経費に算入している。そのような会計では、事業経費をどれだけ削減できるかなどの経営判断をしようとしても、予算書や決算書の数字からは判断できない。一般管理費のほうも同様に実態が分からない。これでは会計書類はその役割を果たせず、役員や評議員も的確な判断ができない。会計を処理する者も、伝票の数字から決算書を導くことができず、混乱を招く。会計はその目的に沿った本来のあり方で一貫し、公益目的事業比率は、会計の数字を基にして、その事業経費に一般管理費を按分して算入した額によって算出すべきである。事業助成や収益事業課税の基準額も、この算出方式によるべきであろう。
 なお、一般管理費を別建てにしたのは、そこに適正でない費用(例えば、仕事をしない天下り役員の報酬など)の混入を防ごうという意図があるためであろうが、それは一般管理費を別建てにすることによって防げるものではない。別のチェックの仕組みを考えるべきであるが、それができていない。別建てにする大きなマイナス(認められるべき法人が排除される。)を負担しながら、その目的は達せられない(悪賢い法人はいくらでもすり抜けることができる。)ような仕組みは、早々に改めなければならない。
 次に、公益目的事業比率に関するもう一つの問題は、そもそも収益事業等をすべて公益目的事業と相対するものとして捉えてよいのかということである。
 例えば、寄付された不動産の賃貸による収益や寄付された資金の投資による収益をもって公益目的事業を営む団体は少なくないが、不動産賃貸や資金の投資を収益事業とすると、その事業に要する費用が全体の費用の50パーセントを超える時は、公益認定が得られないことが考えられる。しかしながら、それらの事業が、利益を分配せず、もっぱら公益目的事業の費用を捻出するために遂行されている場合に、収益事業の費用が大きいからといって公益法人と認められないのでは、一般常識に反する。
 公益事業よりも過分な収益事業等を営む法人を公益法人と認めない理由を詰めれば、公益法人としての優遇措置を受けた法人が収益事業を営み、優遇措置を受けずに同種の事業を営む企業よりも競争上有利な立場に立つことにより市場の公正な競争を妨げてはいけないというイコールフッティングの原理に行き着く。その原理からすれば、その収益事業の収益のうち公益目的事業に用いられる分は、納税したのと同じ経済的効果を持つ。イコールフッティングに係るのは、収益のうち同じ収益事業に再投資される分だけである。したがって、公益目的事業比率に用いる収益事業の費用は、収益事業に再投資される収益の比率に対応する費用額に限定すべきであろう。
 このほか、収支相償や遊休財産の保有制限などにも大きな問題がある。
 政府に検討委員会を設け、早急に改正作業に着手すべきであろう。

(「月刊公益法人」Vol.41 No.7 2010掲載)

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