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定期連載

更新日:2011年2月9日

政局報道から問題提起報道へ
 政策を立案する官庁には、昔から変わらないメディア対策がある。「まとめた政策を、メディア各社に一斉に発表したら、重大な問題についての政策決定(法案骨子の事実上の確定)であっても、大きくは取り扱ってもらえない」
 私も、長い経験上この認識は正しいと思う。だから、国民や野党の不評を買いそうな政策については、なるべくさりげなく、一斉に発表する。記者クラブに簡単な資料を投げ込んでおくだけ、というような発表の方法もある。
 逆に大きく取り扱ってほしい時は、一斉発表の前に、一社にこっそり漏らす。すると、その社の特ダネになるから、一斉発表の場合の数倍から十倍くらいの大きな記事になる。
 「なんでこの程度の政策決定がこんなに大きく扱われるのだ?」
 扱われている政策に通じている人には唐突に感じられるような記事を目にした方も少なくないだろう。そうなると、他の各社も追い出し、一斉発表の記事も大きめに扱われたりする。
               *  *  *
 政策の報道ぶりがそういう感じで、相当国民生活に影響を及ぼすものでもほとんど報道されなかったり、あるものは突出して報道されたりするから、国民には、何が課題か、問題点をどう検討したか、解決策として打ち出された政策は支持するに足るものかなどについて、判断する材料は、十分には与えられない。これでは、一般国民に対し、政策で政治家を選ぼうと言っても、無理である。毎国会の終了時に通った法案の一覧表が出るが、法律の形で答が出た政策の課題を理解できる一般国民が、どれだけいるだろうか。  
 そのことは、特定の行政分野に限られた課題だけではなく、国民生活にとって決定的、基本的な政策についても、あまり変わらない。たとえば、関係者の間では長い年月をかけて検討されてきた後期高齢者医療制度について、なぜそれが求められたか、問題点がどう検討されてそうなったかについて理解していた一般国民はほとんどいなかったのではないか。そして、年金から天引きとなって大騒ぎとなり、それだけで制度廃止が世論になってしまったのではないか。 
               *  *  *
 それでは、今、課題をどうすればよいかについて、意見を持てるほどの情報を、国民はメディアから提供されているだろうか。結論についての断片的情報しか与えられていないのではないか。
 国民がメディアの情報で政策を理解するためには、課題が何か、その解決策は何かについての報道が必要であろう。課題を生み出した社会の実情の報道、課題解決のため有識者会議などで検討されたいくつかの案の優劣、それをどう判断して一つの政策を導き出したのかという理由などが、検討のプロセスにおいて、簡潔に報じられていれば、一般国民も、自ら考え、たとえ自分の生活に厳しい政策であっても、これに理解を示すのではなかろうか。一言で言えば、問題提起の報道である。
 そういう報道がなされない限り、政治報道は政局の報道中心の域を脱しないのではないかと、私は憂いている。

(信濃毎日新聞「月曜評論」2011年2月7日掲載)

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