政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2009年5月18日

市民を向いた仕事を

 裁判員制度の導入は、刑事裁判の運用を画期的に変えることとなる。法務省刑事局は、検察庁と協力して、一般市民の裁判に対する理解を深めるため、広報に努めた。最高裁も腹を決めて頑張った。一般の市民からは縁遠いところにあると思われている検察が、市民の目線に立って刑事裁判を考えたのは、日本が民主主義国になってからも初めてのことであろう。
  一方、法務省民事局の方は、市民生活の基本に関わる法を担当しているのであるから、もっぱら市民の方を向いて仕事をしている筈である。しかし当事者は、そういうことを言われてもびっくりするだけではないか。
  それでも、先進国に追いつけの時代は、学者が諸外国の法制を調べ、法制審議会の権威をかざしてそれを導入していれば、それでおおかたの国民のニーズに応じることができていた。しかし、基本レベルで先進諸国に並ぶようになってからは、違う。多様になり、複雑になった市民のニーズに応じるためには、これを敏感に把握するアンテナが要る。そのアンテナがないのである。
  惨憺たる分野が、親族・相続法の領域であろう。資本主義国が必然的にたどる道を進んで、日本でも核家族化が普遍的になってもう何十年にもなる。なのに親族・相続法はいまだに大家族を前提としている。そのため、扶養義務はまったく実態に合わず、それが生活保護認定の足枷となっており、相続は、無秩序な争いを惹起している。しかし、この法による秩序破壊の実態をキャッチするアンテナがない。別氏別姓に対応しようとしたのはよいが、市民感情がまったくわからない政治家による時代遅れの異議にあえなく屈したままである。意欲的な市民が諦め、政治や行政を見限って無気力になるのがこわい。
  債権法の整理はよいが、高齢化の進展に伴って生じた「住まい方の多様化」に民法は対応できず、他省庁に任せきりである。閣議決定で実施が決まり、社会福祉協議会が担当したリバースモーゲッジも、法的な仕組みができていないから、ほとんど役に立っていない。営利の分野は他省庁任せでいいとしても、国民生活の基本に関わる部分を民事局が放置するのは、いかがなものか。
  民法総則部分の改正に及んだ公益法人制度改革もそうである。市民は、NPOは味方だが公益法人は天下りのための官益法人だと認識している。たしかにそういう公益法人が存するのだから、そこは官庁のお目付役を期待されている法務省が本来の役割を果たし、市民には無用な天下り用公益法人を排し、市民のための公益、つまり、本物の公益を実現しようとする法人を積極的に認めていくような制度にし、その運用に当たってほしかった。
  成年後見制度を創設したのは民事局のヒットであったが、運用がはかばかしくない。それでも、家庭裁判所は、最低限度の対応はしているが、間もなく組織の限界でパンクするだろう。現在170万、いずれ倍になると予測される認知症患者を考えると、弁護士、司法書士などの専門家頼みで成年後見がまかなえる筈はない。なのに、法務省が市民の中から成年後見人を養成しようとする動きは全く見えない。市民生活を見ない、生みっ放しの無責任な親だと評されても仕方がないだろう。
  この時代、民事局と法務局の権限や人事を基本から組み直し、市民を向いて仕事をする機関に作り直してほしいと願っている。

(『民事法情報』No.271/2009.4月号「明日への指針」掲載)

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